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【実践経営倫理塾】
 「経営監査の高付加価値化<CSVと経営監査>」第1回

経営倫理実践研究センター上席研究員
(株)ポーラ・オルビス ホールディングス内部監査室部長
  吉 田 邦 雄
CFE (公認不正検査士)

※本稿は 日本内部監査協会機関誌『月刊監査研究2015年8月号』に掲載されたものを5回に分けて紹介する。

 近年、海外・国内共に内部監査へ大きな影響を与えるビジネス環境に激変が起こっている。
先進国では、多くの市場が成熟した昨今、企業は旧来の売上/利益追求型の経営思考から脱し、次の新しい競争戦略を模索している。このような状況下、我々内部監査人は「井の中の蛙大海を知らず」に陥らないよう、日頃からアンテナを広く張り、経営環境の変化にきちんと対応できるよう「内部監査の高度化」に努めなければならない。
これまで、「経営戦略」に関して、内部監査人は、日本だけでなく世界的にも、これを敬遠するか、または、監査対象と考えなかった歴史的経緯ある。内部監査の役割がコンプライアンス、財務報告の信頼性、資産の保護等の準拠性監査だけの時代は終わりつつあるが、知る限りにおいて、プロ監査人と言われている人達は、「経営戦略」についての感度やその知見が極めて高い傾向にあり、それらを「経営監査の高付加価値化」に生かそうとしている。


1.はじめに

 経営戦略の世界で、イノベーションが起こっている。それは「CSV*:Creating Shared Value共通価値の創造」という経営コンセプトが企業やCSR責任者、とりわけ、経営者に大きな影響を与えている。CSV共通価値の創造は経営戦略研究で世界的に著名なハーバード大学教授マイケル・ポーターが中心となって提唱したものであるが、筆者** は、その後の我が国の展開状況も踏まえ、経営監査の視点で且つニュートラルな立場から、これらの重要ポイントを紹介する。本稿では、「CSV共通価値の創造」を軸に「公益資本主義」「統合報告」そして、「ガバナンス改革」に言及し、内部監査への影響を考察したいと考える。

 ・CSV*  : 最近、米国では「CSV:Creating Shared Value」を単に
       「Shared Value」と呼ぶこともある。
 ・筆者** : これまで富士ゼロックスで12年間 戦略の策定・評価に携わり、
       1995年以降、ポーラ・オルビスも含め、20年間にわたり
       内部監査(経営監査)の第一線に従事すると共に、
       CSVの研究も続け現在に至っている。 

2.「CSV共通価値の創造」とは

 これまでの先進企業は、CSRの見地から、事業利益の一部を使い、社会貢献をしてきたが、 利益に余裕がなくなるとその活動を中止か縮小せざるを得なくなる。そこで登場してきたのが「CSV共通価値の創造」という概念で、企業と社会両者が同時に価値を生み出す経営フレームワークもしくは経営コンセプトと言われている。前述のマイケル・ポーターおよびマーク・クラマーが 2011年「共通価値の戦略」と題する論文で提唱したもので、経済的価値(収益)を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創出するというアプローチと定義される。従来から言われた「本業を通じたCSR」に似た内容であるが、様々な戦略的要素が入っている。Creatingは、経済、社会における価値の規模そのものを拡大するという意味であり、Sharedはその価値が経済的価値と社会的な価値によって共有され、更に、Valueは便益を指すがビジネスとして当然「費用対効果」を考慮する意味がこめられると解される。
歴史的には、社会的価値を標榜するソーシャルセクター(NGO等)と経済的価値を標榜する ビジネスセクター(企業)との関係は対峙する時代が長かったものの、CSR活動の普及により、 社会的価値を重視・保護するようになり、2000年に入ってからは、ようやく相互に共通価値を生み出す「共創」そして「連携」の時代を迎えたとされる。

 

3.経営戦略の視点

 経営学者ピーター・.ドラッガーは「企業とは、社会における富の創出機関であり、生産機関である」と述べているように、公益をもって企業の利益にすることが重要であり、企業はよりよい社会を実現するために存在している。また、マーケッティング戦略の大家であるフィリップ・コトラーは社会的責任のマーケティングという視点から、「事業の成功」と「CSR」は両立すると強調している。我が国でも、近江商人の「三方よし」すなわち、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」、すなわち、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるという考え方や、松下幸之助が「企業は社会の公器である。企業は社会と共に発展していくのでなければならない」と述べている。 このように、経営戦略面でも企業価値と社会的価値は両立するとの考えは、CSVの提唱を待つまでもなく既に存在していたため、先進企業の一部の経営者が、社会・環境問題を解決しつつ 利益を上げる取り組みは以前から行っていたとも言える。 しかし、これらのビジネスパーソンの人たちが、「既にCSVはやってきており、CSVはCSRの単なる延長線上にある経営コンセプトだ」と捉えてしまうと、CSVの“本質”を見誤る危険がある。 前述のような時代認識の下、従来からの考え方で これまでと同じ活動を続けているのでは、何も市場にダイナミックなイノベーションを引き起こせないし、社会的な大きな課題も解決されない。 。

吉田邦雄上席研究員プロフィール


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