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シリーズ:危機管理と広報

 BERC主任研究員 萩原 誠ERC主任研究員 萩原 誠

第1回:東芝の広報機能の崩壊

 かってはIR広報の模範企業と評価されていた東芝で粉飾会計が発覚したのは2015年2月である。2009年ごろから歴代社長主導の下に約2300億円の架空利益が計上されていた。もっともそれは氷山の一角で、原発部門のアメリカの子会社WH社(ウエスチングハウス)の隠れ赤字が東芝の屋台骨を揺るがすほど巨額であることが2016年の年末から2017年3月にかけて次々に判明した。 この間、ガバナンスの一翼を担うIR広報も、会社の損害(ダメージ)を最少化するはずのリスクマネジメント広報も、まったく機能しなかった。トップが腐ると広報も機能不全に陥る典型例だ。その一端が最初に露見したのは2013年の社長交代会見である。

時期 出来事 問題点
2005 西田厚聡社長就任(原油の高騰、地球温暖化問題で原発に追い風) 原発と半導体に事業の選択と集中を決断
(当時は名経営者と称賛された)
2006 アメリカのWH(ウエスチングハウス)を54億ドル(約6600億円)で買収 ライバル三菱重工の提示額(約4500億円)を大幅に上回る強引な買収だった。
2008 アメリカで原発4基受注(2015年完工予定がいまだに完工せず) 規制強化などで大幅な工期遅れ=コスト上昇
2011 東日本大震災発生(東電福島第一原発メルトダウン事故発生=チェルノブイリ事故と同等の原発過酷事故) 原発推進に世界的な見直し(米国規制強化・ドイツ脱原発/アメリカのGEは原発縮小・ドイツのシーメンスが原発から撤退、日本の東芝は世界で39基受注(売上1兆円)計画を変更せず
2011 東日本大震災発生(東電福島第一原発メルトダウン事故発生=チェルノブイリ事故と同等の原発過酷事故) 原発推進に世界的な見直し(米国規制強化・ドイツ脱原発/アメリカのGEは原発縮小・ドイツのシーメンスが原発から撤退、日本の東芝は世界で39基受注(売上1兆円)計画を変更せず
2015 証券取引等監視委員会に不正会計内部告発 (遅きに失した)内部告発連鎖の噴出
11月、非上場のWH社の赤字隠蔽を日経がスクープ
2017 3月29日 WH社連邦破産法11条申請 東芝の債務超過約6,000億円(2017.3末)

『社長交代会見で前代未聞の口論』
 2013年2月27日の社長交代会見(佐々木社長→田中社長)は醜態だった。西田会長は副会長に就任する佐々木社長を会見の場で批判し口論になった。
 「一つの事業しか(原発事業)やってこなかった人(佐々木氏)が東芝全体を見ることは無理だった」と。
 佐々木社長は反論した。
 「業績を回復させ(これがチャレンジの名のもとの粉飾だったのだが)成長軌道に乗せる役割は果たした」と。
 東芝を底なしの泥沼に陥れた最高責任者2人の(どっちもどっちの)会社の私物化と裸の王様度が露見した記者会見だった。

『IR優良企業失格の決算発表延期』
 東芝本社は子会社WH社の経営実態(損失)を把握できないために2016年度第3四半期の決算の発表を3回も延期した。2016年12月27日、東芝はWH社の損失は当初予想の約100億円が数千億円になると発表したが、実際には7100億円以上に拡大した。結果、東芝は2017年3月末に約6000億円の債務超過になった。こうして監査法人の承認を得られないまま17年4月11日に東芝は2016年4月?12月の決算発表を強行した。IR広報の崩壊である。稼ぎ頭の半導体事業(東芝メモリ)の売却によって2018年3月末の債務超過解消と上場廃止の回避を目指すが先が見えない茨の道が続く。

『ワンマン経営者が広報部を潰す』
 2017年2月8日、東芝はメディア担当者をネット募集した。東芝ともあろう名門会社が「事ここに至って広報担当者を募集とは」と広報関係者は昔のある事件を思い出した。2002年ごろ消費者金融大手の武富士が年収2000万円ともいわれる待遇でベテラン広報担当者を募集した一件だ。当時、武富士は社長の指示で某ジャーナリストの自宅に盗聴器を設置したことが露見し社長が逮捕される事態になっていた。慌てた武富士は(会社にとって不都合なことを書かせない)メディアコントロールのために広報人材を雇ったのである。

『司令塔なき広報宣伝戦略』
 2017年の年明け、東芝は「東芝は技術の力で未来を明るくしたい」のキャッチフレーズの下「未来の技術編」と「社会を支える技術編」の企業CMを大々的に放映した。連日のように経営危機、債務超過危機、上場廃止危機が報道される中でテレビCMとは、東芝の危機感の甘さとコスト意識欠落の象徴だった。長い間東芝の顔で有り続けてきた日曜日夕方の東芝提供番組「サザエさん」(フジテレビ系)の降板すら噂される状況になっている。

『スポーツ支援にも疑問』
 歴史のある大企業は企業イメージアップと社員の一体感の醸成のために企業スポーツを支援している。東芝は硬式野球・バスケットボール(川崎市)、ラグビー(府中市)が強化種目である。中でもラグビーは岡村正元社長・会長が日本ラグビー協会会長ということもあって日本代表のスポンサーにもなっている。会社を取り巻く状況がこれほどの危機状態であれば、ラグビーを含めたスポーツ支援の見直しが必要だ。
 かっての女子バレーの名門、ユニチカ(旧ニチボウ貝塚)は繊維不況で会社が苦境に陥ってから10年経った2000年に女子バレー部を同業の東レ(滋賀)に引き受けてもらった。苦渋ではあるが正しい決断だった。

東芝の経営危機の教訓

 東芝の経営危機の背景には「ワンマン経営者の独断専行」「上に物言えない組織風土」「機能しない社外取締役」があった。その結果、東芝は原発部門の暴走を許してしまい経営破たんの瀬戸際に追い込まれている。※監査法人(新日本監査法人)が会社となれ合いだったことはとうに露見して、現在はPwCあらたに監査法人は交代している。
≪名門企業を破たんに追い込んだ"社長の暴走"≫
 2006年、東芝はWH(ウエスチングハウス社)を54億ドル(約6600億円)で買収した。当時、実質価値の2倍以上の高い買い物だと噂された。ここまではいいとして問題は5年後に発生した東電福島原発事故後に原発事業を見直さなかったことだ。福島原発事故は1979年のチェルノブイリ原発事故(ウクライナ)に匹敵するレベル7の過酷事故だった。そのフクシマを教訓にしてドイツは脱原発に踏み切り、アメリカは原発の安全基準のハードルを上げた。その結果、アメリカのGEは原発部門縮小、ドイツのシーメンスは原発事業から撤退した。
 にもかかわらず経産省主導の原発のパッケージ輸出という国策に乗っかって原発事業推進に突き進み東芝を存亡の危機に追い込んだ西田・佐々木両社長の責任は重い。
≪WH社技術陣をコントロールできなかった親会社東芝技術陣≫
温暖化防止のためのCO2削減や原油価格の高騰で「原子力ルネッサンス」が叫ばれたころの東芝のWH(ウエスチングハウス社)の買収はマスメディアや経済界の称賛の的となった。しかし10年経った今、WH社の莫大な赤字が露見し東芝の経営危機は底なしの泥沼状態である。買収したWHは加圧水型原子炉(PWR)のトップメーカーでアメリカの原子力空母や潜水艦に搭載される原発を製造している。一方東芝は沸騰水型原子炉(BWR)メーカーで、WHの技術陣にまともに対抗できなかったという。この埋めがたい技術力ギャップが子会社WHの放漫経営を野放しにしてしまった。
≪遅きに失した内部通報≫
東芝の証券取引等監視委員会への内部通報は2015年2月だった。利益かさ上げの粉飾が始まったのは少なくとも2009年度からというから遅きに失した。内部通報制度が機能する条件は従業員のトップへの信頼しかない。だから社長は次の三つを社内外に宣言すべきである。
○内部通報を奨励し仕返しは絶対にしないことを宣言すること。
○コンプライアンス違反が判明したら即座に社内外に公表すること。
○コンプライアンス違反の信賞必罰を徹底させること。
東芝の暴走ワンマン社長がこの3原則を実行しなかったことは言うまでもない。
≪肝心の時に機能しなかった社外取締役≫
いまだに東芝の経営に関与しているという財界の実力者西室泰三名誉顧問(元東芝社長・会長)が直接依頼したという有名社外取締役陣は(福島原発事故後の)原発事業の見直しや虎の子の医療機器事業売却に歯止めを掛けなかった。社外取締役はその経験と見識を外の目で社長に箴言するのが最大の役割である。それが出来ないのなら安易に社外取締役を引き受けて晩節を汚すべきでない。日本企業の社外取締役のあり方を見直すことが必要だ。

●萩原 誠(はぎわら まこと)
BERC主任研究員、広報コンサルタント
1945年鹿児島県生まれ。1967年京都大学法学部卒。帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、日本原子力学会倫理委員、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザー、静岡県東京事務所広報アドバイザーを歴任。
書著に「会社を救う広報とは何か」彩流社、「地域と大学~地方創生・地域再生の時代を迎えて~」南方新社がある。


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